陽子線治療
陽子線治療は放射線治療の一つです。
陽子線は目にも見えず体に当たっても何も感じませんが、病気の部位に照射すると細胞は分裂ができなくなって壊れていきます。
その性質を利用して、病気を治したり辛い症状を軽くする目的で行われています。
現在、がん治療で使われている一般の放射線では、がんに対する放射線の投与量が多くなるにつれて周囲の正常組織にもダメージが増える為、がんに対して十分量の放射線を照射できない場合があります。
また、様々な研究の結果、一般の放射線に対して効きにくいがんの種類が存在する事もわかってきました。
これに対し陽子線治療は、体内のがん病巣に集中して照射を行う事が出来る為、周囲の正常組織への影響を軽減する事が可能で、身体的負担が少ない事が特徴です。
また、治療効果は手術と同じくらいかそれ以上の効果を得られる事もあり、機能の温存やQOL(生活の質)の尊重が特徴です。
注意点としては、陽子線治療は予定された期間を続けて行わないと効果がありません。途中でやめないようにする事が大切です。
治療の流れは以下の通りになります。
1、診断・病巣の把握
2、固定具作成
私の場合は、頭頚部なので固定する為にシェルという仮面を作成しました。
3、治療計画用CT撮影
4、治療計画(2週間程必要)
5、照射器具の製作
6、照射野確認、線量測定(最初は予防範囲も含めた広範囲を照射し、治療効果を画像確認していきながら範囲を限局していきます)
7、照射(週5回、合計32〜34回)
方法としては、ベッドに横になり体を固定した状態で治療を受ける部位に照射されます。
治療に伴う有害反応
照射開始から3ヶ月以内すぐに出現する早期反応と3ヶ月以降に出現する晩期反応があります。
有害反応は照射される部位・範囲・線量により異なります。
以下に頭頚部の有害反応を記載します。
【頭部・頭頚部】
早期:頭痛、耳痛、めまい、脱毛、頭皮の発赤、脳浮腫、嚥下痛、嚥下困難、声のかすれ、口内乾燥、味覚異常、体重減少
晩期:聴力低下、外耳・中耳・内耳の障害、下垂体の機能低下、水晶体の白内障、緑内障、脳壊死、片麻痺、感覚障害、視力低下、視野障害、失明、甲状腺機能低下、嗄声、声の変化、口内乾燥、味覚障害、開口障害、嚥下障害、軟骨壊死、骨壊死、創傷治癒の遅れ、瘻孔形成、虫歯、肺尖部の線維化、脊髄の障害
【皮膚・皮下組織】
早期:脱毛、発赤、皮膚炎、浮腫、潰瘍、出血、壊死
晩期:萎縮、色素沈着、皮膚の脱色、毛細血管の拡張、潰瘍、脱毛、皮下組織の線維化・硬結・浮腫、皮膚の潰瘍、皮膚の壊死
【その他】
骨髄抑制、体重減少、倦怠感、感染症、2次がん など
頭頚部で特に考慮される有害反応
1、皮膚
照射後2〜3週間目くらいに照射される部位の皮膚に種々の程度の放射線皮膚炎が出現します。多くの場合、軽い日焼けのような症状(発赤、軽い痛み、かゆみなど)ですが、場合によっては強い日焼けのように浸出液が出たりします。症状によっては軟膏などでの処置が必要となります。照射後さ色素沈着や小さな痕が残る事があります。また、希にはびはん、皮膚潰瘍など重篤な状況となる可能性があります。
2、粘膜(口腔・鼻・咽喉頭)
口腔・鼻・咽喉頭粘膜に炎症が生じる可能性があります。その程度は、軽い嚥下時の違和感から、疼痛、潰瘍、出血などさまざまです。症状の軽い場合には、時間とともに軽快・回復する事が多いですが、なかには痛み止めや抗炎症剤など薬による治療が必要となったり、食事が取れない場合は経管栄養(鼻からチューブを直接、胃や腸まで入れて食事や水分を送り込む)や中心静脈栄養などの処置が必要となる場合もあります。また、照射後半年以降から粘膜潰瘍を形成する可能性があり、その疼痛に対して鎮痛剤の使用や、潰瘍からの出血に対して止血治療が必要となる事もあります。また、深部組織への感染の危険性もあります。
3、喉頭
喉頭への照射により喉頭が浮腫状となり、声がかすれたり呼吸がしづらくなる事があります。症状が強い場合は気管・気管支に外科的な処置が必要となる場合もあります。
4、骨・筋肉(頭頚部)
照射された部位の骨が、照射後半年〜3年位して、骨髄炎・骨壊死・腐骨となる可能性があります。疼痛の為に鎮痛剤の使用や腐骨除去手術が必要になる可能性があります。筋肉が照射されると、照射後半年〜3年位して、筋肉の線維化が進行し、開口障害、嚥下障害などが出現する可能性があります。
5、視神経・視交叉
視神経・視交叉が照射される為、照射後1〜2年から、失明を含む視機能の低下が生じる可能性があります。
6、眼球
眼球に照射された場合、種々の程度の放射線結膜炎、角膜炎、虹彩炎が出現する事があります。多くの場合、軽い炎症症状(充血、むくみ、かゆみ、軽い痛み)で済むのですが、時には角膜潰瘍や急性緑内障が生じ、鎮痛剤や点滴薬などで治療を行う事があります。また照射後しばらくして白内障や網膜炎、緑内障、網膜剥離、視神経炎、硝子体出血などにより視機能が低下する事があります。希ですが、眼球の疼痛の為に眼球摘出が必要となる事や視神経乳頭や黄斑部に照射された場合は、失明に至る事もあります。
7、脳
脳の一部が照射された場合、照射後しばらくして種々の程度の放射線脳炎・脳壊死が出現する可能性があります。脳はその部位によって種々の程度の機能障害が出現する可能性があります。また、脳壊死を治癒する為に開頭手術が必要になる事が希にあります。
8、脳幹
脳幹の一部が照射されると照射後しばらくして様々な麻痺症状、嚥下障害など重篤な症状が出現する可能性があります。
9、脳神経
脳神経が一定量の放射線照射を受ける事によって、神経の損傷により数ヶ月経ってから嗅覚障害、複視、眼瞼下垂、顔面の痺れ・麻痺、味覚障害、嚥下障害などが生じる可能性があります。
10、下垂体
下垂体が照射される事で照射後しばらくしてホルモンバランスが崩れる事で様々な症状が出現する可能性があります。程度によってはホルモンの補充治療が必要になる可能性があります。
11、血管
腫瘍と接する動静脈の血管が照射されると、特に動脈では腫瘍縮小に伴い血管の狭窄が起こり、場合によっては血栓症から脳梗塞などを起こす事があります。また、腫瘍によって脆くなった血管では、生命に関わる出血を起こす可能性があります。
12、耳
耳が照射された場合、種々の程度の外耳炎・中耳炎・内耳炎が出現する事があります。多くの場合、軽い炎症症状(聴力低下、耳鳴り、軽い痛み、めまい)で済むのですが、時には抗生剤や鎮痛剤、抗めまい薬の投与や鼓膜切開などの耳鼻咽喉科的処置が必要となる事があります。希には、高度な聴力低下や聴力喪失に至る事もあります。
13、唾液腺
唾液腺が照射される為、照射開始早期より一過性の疼痛が出現する可能性があります。また、唾液腺の萎縮に伴う機能低下による種々の程度の口渇・味覚変化・口内乾燥などが出現する事があります。多くの場合、軽い症状で済むのですが、時には唾液を促す薬や人口唾液などを使用する事があります。また、歯周疾患のリスクが高くなる事があります。
14、誘発がん
治療後10年以上経過した場合に、従来の放射線治療では希に放射線による新たながんが発生する可能性がありますが、陽子線治療でも同様な可能性があります。その他、照射された部分の正常組織が弱くなる為に予期せぬ副作用が起こる可能性があります。